たとえば、ある企業がマーケティングを成立させた瞬間、
そこには確かに競争力の源泉となる「差別化の価値」が存在し、
それらは“成功体験”として蓄積されていきます。
過去の実績、受賞歴、輝かしい成果の数々――。
しかし数年後、それらを振り返ったときに、ある事実に気づくことがある。
その成功体験が「現在」に結びついていない。あるいは、未来へ派生していかない。
むしろ、特定の“輪”の中を周回し、同じ軌道をぐるぐる回っているように見えることすらある。
さて、ここで一つお伺いします。
成長のプロセスに見えたはずの“その成功”は、
なぜ相乗効果を生み出さなかったのでしょうか。
私自身、この問いに向き合う中で、
ブランディングにおける“Doing”と“Being”の差分に、
この問題の核心があるのではないかと考えるようになりました。
■成功が持続しない最大の理由は、 「Do」ではなく「Be」が欠けているためである。
まず、我々がビジネスで「自信」と「説得力」を持つためには、過去の実績が欠かせません。
これは間違いではありませんし、王道でもあります。
ただし、ここに大きな落とし穴があります。
Doing(やったこと・成果)だけに依存すると、活動を止めた瞬間に評価が逓減する構造になるのです。
自転車をこぎ続ければ前に進みますが、止めた途端に減速し、やがて止まってしまう。
Doingだけで成立するブランドとは、まさにこれと同じです。
一方で、本来のブランディングとは、ある一定のラインに達した瞬間、「信用」が仕事を運んでくる状態を指します。
たとえば、今年の私であれば、コンサルティング実績、著書、Newspicks認定エキスパート、BBT大学講師としての活動と言う一見して「まったく異なる色彩」が、しかし「1つの理念」によって相互に循環し、それぞれが新たな道を切り拓き、幅を広げています。
これは「3本の支柱」が横方向に連結し、エコシステムとして成長しているからです。
しかし、世の中に目を向けると、その“連結”が起こらないブランドの方が圧倒的に多い。
それはなぜか?
答えは、DoingとBeingの違いにあります。
■Doingは“目に見える履歴”。 Beingは“目に見えない矜持”である。
努力で勝負する人は多い。成果で語ることも王道でしょう。
しかし、多くのブランドが見落としているのは、Doingの上位概念としての Being(在り方) の存在です。
「どう在るか」
「どんな姿勢で世界と向き合うか」
「大人として責任を引き受けられるか」
この問いに向き合える個人や企業は、驚くほど少ない。
そして不思議なことに、本物のプロほど、DoingではなくBeingを見る。
Doingだけで生きる人は、成果に追われ続ける。
Beingを軸に生きる人は、成果に支配されない。
Doingが中心にあると、実績を失うことが怖くなり、
他者の視線が気になり、肩書にしがみついてしまう。
しかしBeingが中心にある人は、
仮に成果が出なくても“自分の足で立っていられる”。
DoingがなくてもBeingは残る。
BeingがあればDoingは後からついてくる。
本物ほど、この順序を知っています。
Doingは「何をしたか」。
Beingは「なぜ、それをしたのか」。
Doingは“数字”。
Beingは“数字をどう扱うか”。
Doingは“他者評価”。
Beingは“自己作用(引き受け)”。
ここを混同すると、人生も事業も、他者の評価軸へ引きずられていきます。
そして、Doingは模倣されますが、Beingは模倣できません。
“どう在ったか” の蓄積こそが、数十年にわたって続く“信用”を生み出します。
■セルフチェックは簡単です。
あなた(あるいは自社)の言葉を読み返してください。
それが
「事実と成果の列挙」なら Doing に依存しています。
「信念とストーリー」になっているなら Being に立脚しています。
ハイブランドにストーリーがあるのはそのためです。
ブランドの言葉が持続的な「重さ」を持てないのは、事実の列挙は「深さ」を持たないからです。
■抑えておくべき、「誤解しないでほしいポイント」
こういう書き方をしてしまうと「Doingに意味が無いのか?」と誤解する人も居るでしょう。
しかし、そんなことはありません。
私は、Doingを否定しているわけではありません。
DoingはBeing(目的)の下位に置くべき「手段」だと言っているのに過ぎないのです。
Doingは必要です。
しかし主役ではありません。
主役はBeing。
すべてのDoingは、Beingから生まれます。
行動の前に姿勢がある。
成果の前に覚悟がある。
外側の前に内側がある。
これを逆に積むと、Doingのタワーがタケノコのように乱立し、横の連結が起こりません。
そういう人や施策は「他人軸」になります。
本来やりたかった大義を見失い、来訪者が喜ぶことを目的化しただけのメディア。
他人に期待される自分を演じるために、まったく誰の人生を歩んでいるか分からない著名人。
しかし、Beingから積まれたブランドには、“傘(カサ)”があります。
その傘の下にすべてのDoingが収まり、施策が連動し、相乗効果を生み、新しい場所への道が拓けていく。
だから、永続性が「高い」のです。
■成果を止めているのは、足りない行動ではなく、足りない在り方だ。
企業は不信に陥ると「やり方」を変えます。
個人は成果が出ないと「もっと頑張ろう」とします。
しかし、真に変えるべきは“そこ”ではありません。
成功を持続させる唯一の方法は、Doingを積む前に、Beingを整えること。
対処療法をするのではなく、原因療法を行うのです。
人はそれを「理念」「矜持」「戦略」と呼びます。
Beingのあるブランドは、時間とともに強度を増し続ける。
Doingだけのブランドは、時間とともに静かに消えていく。
これは、企業でも個人でも、同じ法則です。
■最後に。
成功は、才能と努力で生まれます。
しかし、その成功を持続させるのは“在り方”だけです。
ストーリーのないブランドが場当たり的になるように、
在り方のない成功は、時間とともに霧のように消えていきます。
あなたの成功は、Doingに支えられていますか。
それとも、Beingに支えられていますか。
成功の時計を進めるのは、この問いへの「解」なのです。