あなたの支援パートナーは、
「それは、そもそもやらなくていい」
と言ってくれますか?
2026.08

AI時代のマーケティングは「引き算」である

2026.08.01

先月、創業以来の支援思想を、新たな「問い」の形で明文化しました。

その言葉は、次のようなものです。

あなたの支援パートナーは、
「それは、そもそもやらなくていい」
と言ってくれますか?

この言葉を表に出そうと考えたきっかけは、AIによる自社のコンサルティングログの解析でした。

機密情報を除去した実際の対話ログを用いて、私の仕事のうち、AIに代替できる部分はどこか、今後AIへ移行できる作業は何かを精査していました。
その過程で、自社のコンサルティングを補助するAIのVer.2.0を構築したのですが、副産物として抽出されたのが、私が極めて高い頻度で繰り返していた言葉です。

「誰に、何のためにやるのですか?」
「それなら、そもそもやる必要がないのでは?」

という、ある種の「否定文」でした。

今日は、この話の「秘密」を開示しようと思います。

▼クライアントに「そもそもNO」と言える理由

考えてみれば、日頃のコンサルティングでは、次のような相談をよくいただきます。

「いま流行している施策の中では、何をやるべきでしょうか」
「今回のプロジェクトに合わせて、まずWebサイトをリニューアルしたいと考えています」
「このメソッドで成果を出した企業があるそうですが、弊社でも使えないでしょうか」
「マーケティング業務にもAIを導入し、自動化を進めるべきではないでしょうか」

こうした問いに対して、私はすぐに「やりましょう」とも「やめましょう」とも答えません。

まず、

「現在、貴社はどのような事業フェーズにありますか」
「そもそも、この施策は、誰に、何のために行うのですか」

と、背景や目的を確認します。
そのうえで、似た施策によって成果を上げた企業の事例を紹介します。

ただし、成功したという表側だけではなく、その裏側で、どのような人員、時間、予算、運用体制が必要だったのかも併せてお伝えします。

そして最後に、

「そこまで踏まえて、本件の優先順位をどう考えますか?」

とお返しします。

すると、お客様自身から、

「話を聞いてみると、今ではないと思いました」
「確かに、弊社には必要ありませんね」

という答えが出てくることがあります。

つまり、重要なのは、単に「NO」と言うことではありません。
「NOです。なぜなら、貴社の現在地と目的を考えると、優先順位が低いからです」

と、きちんと示せるかどうかです。

ちなみに、マーケティング施策について「やった方がよいですか」と聞かれれば、ほとんどの回答は「やった方がよい」に決まっています。
広告も、SNSも、Webサイトも、展示会も、メールも、AI活用も、やらないよりはやった方がよい。

人、時間、予算が無限にあるのであれば、ですが。

現実の企業活動では、リソースは常に有限です。

したがって、本当に問うべきなのは、

「やった方がよいか」ではなく、
「いま、ほかの何かを差し置いてまでやるべきか」です。

▼マーケティング支援業界は「足し算」で成立している

AIによる解析の中で、もう一つ指摘されたことがありました。

それは、このような「やらない」という提案は、特定の商品や手段を販売している支援会社にとって、構造上、非常に言いにくいということです。

言われてみれば、確かにそうです。

ツールベンダーが、

「貴社は、弊社のツールを導入せず、無料のもので十分です」
と言うことは難しい。

メソッドを販売する会社が、

「その方法は、貴社には適合しません」
と言うことも難しい。

AI事業者が、

「その業務は、AIで自動化しても意味がありません」
と言うことも、広告代理店が、

「今回の目的なら、広告を出さない方が成果につながります」

と言うことも、制作会社が、

「そのランディングページを作るより、別のことに予算を使うべきです」
と言うことも、やはり難しいでしょう。

これは、倫理観の問題ではありません。事業構造として難しいのです。

その結果、多くの支援事業者は「別の足し算」を始めます。

「このマーケティング手法は陳腐化しましたが、次はこちらを試しましょう」
「考え方は正しかったのですが、この要素が不足していました」
「成果を出すためには、さらにこの機能も必要です」

お気づきでしょうか。すべて「足し算」です。

もちろん、それが正しい場合もあります。

しかし、現実の企業課題では、ときに、
「それ、そもそもいらなくないですか」
と問い直すことが、正解への入口になります。

 

▼最後に残るのは、「誰の利益を優先するか」

この言葉に、どこか身に覚えがあると、しばらく考えていました。

そして先日、その理由に気づきました。

何のことはない。
私が企業のマーケティング責任者として働いていた頃、部下によく投げかけていた言葉だったのです。

・代理店から持ち込まれた新しい企画。
・セミナーを聴講した部下からの提案。
・他社で成功したという新しいメソッド。

ひととおり説明を聞いたあと、私はよく、

「で、それが、なぜ『うち』に必要なの?」と尋ねていました。

すると、提案していた本人が、熱から少し冷めます。

そして、
「あれ、なぜ必要だと思ったのだろう」
と、改めて考え始めます。

これは、提案を否定するための問いではありません。
流行や成功事例から一度距離を置き、自社の目的へ戻るための問いです。

こうした「引き算」を継続的に提案できる支援者は、決して多くありません。
結局、信頼とは、このような積み重ねの先に生まれるものなのだと思います。

弊社の支援が、業種や企業規模をまたいでも比較的高い再現性を持つ理由は、特別な施策を大量に持っているからではありません。その企業に似合う戦略を構築し、その企業自身が戦える状態をつくるからです。

そして、それは突き詰めれば、「やらないことを選ぶ」作業でもあります。

近年、BtoBマーケティングの議論も、リード獲得やリード育成の量から、商談や受注との接続へ重心を移しつつあります。
これは望ましい変化だと思います。

なお、「リードジェネレーションもリードナーチャリングも不要だ」という極端な議論も見かけますが、私はそうは考えていません。どちらも、受注に必要であれば使うべき手段です。

ただし、それら自体が目的ではありません。あくまで、受注に至るための手段です。

この前提を履き違えると、本来は手段であるものを「必要か、不要か」という二項対立だけで論じる、短絡的な議論に陥ってしまいます。

受注を最終目的に置けば、リード数や商談数は、そこへ至る中間指標として整理されます。

そして、受注を本気で目指した瞬間、次の問いが生まれます。

「これまでやってきた施策は、本当にすべて必要なのか」
という問いです。

真に受注を目指すマーケティングは、最終的に「やらないことを決める」行為へ行き着きます。

私は、それを「セレクションマーケティング」と呼んでいます。
貴社に「格好いい服」を選ぶのではなく、「似合う服」を選ぶこと。

場合によっては、
「マーケティング部長が、すべての指揮を執る必要はありません」
というように、従来の常識そのものを手放すこともあります。

それは、一部の支援事業者にとっては不都合な結論かもしれません。

しかし、そこを超えなければ、受注を起点としたマーケティングは生まれません。

そして、AI時代には、この判断がますます重要になります。

AIの進化によって、マーケティングにおける「足し算」のコストは、急速に下がっています。

・文章をつくる。
・広告案を増やす。
・データを分析する。
・顧客への連絡を自動化する。

これまで人手を要した多くの施策が、容易に実行できるようになりました。

ただし、一般的なAIの使い方は、与えられた前提の中で、「どう実行するか」を考える方向に寄りやすいものです。

施策案を増やし、改善案を加え、実行を効率化する。
つまり、問いを置かなければ、AIはマーケティングの「足し算」をさらに加速させます。

たとえば、家計や今後の予定まで共有されたAIに、「次の休みに、ハワイへ行きたい」と相談したとします。

そのAIなら、
「その旅行を選ぶと、年末に予定している旅行の予算が足りなくなります」

と指摘してくれるかもしれません。

しかし、そうした前提を与えず、ただ「ハワイへ行きたい」と伝えれば、AIはおそらく、条件に合った最高の旅行プランを用意してくれるでしょう。

つまり、たとえAIでも前提や優先順位が共有されていなければ、「引き算」の提案は成立しにくいのです。

だからこそ、人間が先に問わなければなりません。
「それは、そもそも今やるべきことなのか」

この判断には、企業の目的、優先順位、使える資源、現場の負荷といった文脈が必要です。

AIが悪いのではありません。
何をつくらせるかを決める前に、何をつくらないかを決める必要があるのです。

AI時代に希少になるのは、「何ができるか」ではありません。

・何を選ばないか。
・何を始めないか。
・何を自動化しないか。

限られた人、時間、予算を守るために、
「それは、いまやらなくてよい」と言えることです。

もちろん、必要なのは、理由のない否定ではありません。

企業の現在地と目的に照らして、
「なぜ、いまはやらなくてよいのか」
まで示せることです。

改めて、お尋ねします。

あなたの支援パートナーは、
「それは、そもそもやらなくていい」
と言ってくれますか。